良い傾向だ
「いつまでも待つ」のニュアンスには、「次回に持ち越してもいい」という猶予は一切含まれていなかった。彼の言うそれは、常に「今日中」を意味していた。私は、重い口を開いて彼に話しはじめた。実父に風呂場でされたこと、布団の中でされたこと、その時間、部屋の空気、事後の臭いに至るまで、詳細に。
涙を流す私を見て、彼は「良い傾向だ」と言った。「辛かったのだから、泣けたのは良い傾向だ」と。その台詞自体は間違っていないはずなのに、妙にゾッとした。
「君は治るよ」
彼の気が済むまで一通り話し終えると、眠ることを許された。酷い悪夢を何度も見て、そのたびに叫んだ。彼はそんな私に、入眠前と同じ台詞を囁いた。
「良い傾向だ」
※医療に関する専門的知識や資格を持ち合わせていない人物から、独自の精神療法を受ける行為は、大きな危険を伴います。素人が複雑性PTSDの治療を行うことは、現実的に不可能です。患者の心身に負担をかけるばかりか、最悪命を落とす結果にもつながります。
当時の私はその判断力がなかったため、抗う(逃げる)選択ができずに足を踏み入れてしまいましたが、決して真似しないでください。
◆家庭内での虐待などに関して、警視庁でも相談を受け付けています。
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