僕はいつまでも待つよ

彼は、私から過去を引き出すことに躍起になった。何をされたのか、どの場所で、どんなふうに、どれくらいの時間をかけて、どの部位をどの順番で触られたのか。彼の口調はやさしく、詰問調ではなかったことが、私の判断を鈍らせた。

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酷いことを聞かれている。酷いことをされている。痺れた頭の片隅でぼんやりとそう思ったけれど、薬がもたらす眠気は、かすかに芽生えた抵抗心をあっさりと踏み倒した。

彼は、私が発する言葉を都度ノートに書き留めた。昔からよくある大学ノートにペンを走らせる彼の姿は、勤勉な学生そのものに見えた。彼は決して大きな声を出さず、肉体的な暴力も振るわなかった。ただ、質問に「答えない」ことだけは、許してくれなかった。

「思い出すのは辛いよね。言いたくないと思う気持ちもわかるよ。でも、起きた事実を知らないままだと治療はできないから、君が答えられるまで、僕はいつまでも待つよ」