無防備な子どもの如く
本書に出会ったことで、私はようやく正気を取り戻した。Sの言いなりになっていた自分は、過去、両親の言いなりになっていた頃の私とほぼ同一であった。よくよく記憶を辿ってみれば、父もSと同じ手口を使っていた。
父は私に暴力を振るったが、決してそれだけではなかった。時に優しい言葉をかけ、上手くできた時にはここぞとばかりに褒めてくれた。ちなみに、ここでいう「上手くできた」とは、幼少期の私が、実父の性欲を満足させる行為を指す。
「お前のために教えてあげているんだよ」
「お父さんは、お前のことを一番大事に思っているんだ」
父の機嫌を損ねることなく要求に応えることができれば、そう言って頭を撫でてもらえた。それが「愛」ではないことを私はとうに知っていたのに、頷くことで己の身を守っていた。父が私に用いた行為を「グルーミング」と呼ぶことを、数年前に知った。
Sと出会った時、私はもう子どもではなかった。しかし、「後遺症」という爆弾を常に抱えて生きることに疲れていた私は、無防備な子どもの如く、Sを信じた。そして、壊れた。