転げ回るたび、深く突き刺さるトゲ

小川洋子氏の短編集『完璧な病室』に収録された『冷めない紅茶』は、人の生死に奥深く向き合う物語だった。“命”そのものの匂い、命が消える時の音。そういったものが、たしかな手触りとして感じられる作品である。

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私自身の体験と作品のストーリーは、一切重ならない。だが、本書に綴られた言葉たちが、私の目を覚ましてくれた。それは優しい目覚めではなく、言ってみれば横っ面を張られたような感覚に近い。だが、それくらいの衝撃がなければ、Sにかけられた洗脳を解くのは難しかったように思う。

物語には、かつて学校の図書室に勤めていた女性が登場する。その女性が、主人公との会話の中で、「ライオンゴロシ」という植物について詳しく解説する場面がある。

“尖ったとげがライオンの足にでも刺さると、歩くたびにとげが肉に食い込んで痛さが増してくるの。それでライオンはその果実を口ではずそうとするんだけど、今度はとげが唇に刺さってしまい、物を食べるたびに更に深く深く食い込んでくるの。”