膿は、気づけば全身に回っていた
ライオンは最終的に、食い込んだ傷が膿んで何も食べられなくなり、餓死するのだと女性は言った。さらに、女性はこう続けた。
“ライオンは食い込むとげの痛さに、膝が砕けるまで飛び跳ねるんだけど、飛び跳ねるたびにとげの根元から種子が一つずつ飛び出す仕組みになっているの。ライオンが苦しみもがけばもがくほど、この植物は遠くに種子を飛ばして、繁栄していくのよ。”
父やSは、人間ではなく「ライオンゴロシ」なのだと思った。そして私は、転げ回るライオンの如く、自らとげを深く深く突き刺しているに過ぎないのだ、と。とげを引き抜くことが不可能なら、患部を切り落とすしかない。
でも、私の患部は“記憶”だった。自らの意志では切り落とせない、書き換えもできない。厄介な患部で膨らんだ膿は、気づけば全身に回っていた。