「おばあさんたちが主人公の絵本を描いていると言ったら、知り合いがみんな『うちのおばあちゃんを描いて』って写真を持ってくるんです」

出産を機に小学校教師の仕事をやめ、専業主婦をしていましたが、下の子どもが高校に上がると、毎日虚しさが募るようになって。自分だけ社会と繋がっていないような気がするんですね。家事を終えると、なんだかつーっと涙が出てくる。それで50歳のとき、臨時教員として仕事に復帰することにしました。

小学生も低学年だと、いくら「静かにしましょう」と言っても、教室はわいわいがやがや。ちっとも静まりません。ある日、困り果てた私は、黒板の隅っこに「おこりんぼうでわがままでいじわるなお姫様のお話」と書いて、ひとりで語り出しました。もちろんお話の筋など決めていない、アドリブです。

すると前のほうからだんだん静かになって、「先生、その子どんな顔してるん?」なんて聞いてくる。黒板にお姫様の顔を描きながら、私は娘に絵本をつくったときのことを思い出していました。お話って素敵だなあ。帰ってすぐ、そのお話を絵本にしました。これが再び絵本をつくるようになったきっかけです。

定年退職後は絵本の読み聞かせボランティアをしたり、つくった絵本を「ほしい」という近所の人に差し上げたりしていました。そうしたら夫が、「嵯峨美術大学に絵本の講座があるようだよ」と教えてくれたのです。

絵本の描き方だけでなく製本の仕方まで学べるというので、受講を決めました。週1回の講座でしたが、電車だと片道3時間。それでも楽しくて、65歳から4年間通って、その間に12冊の絵本をつくりました。

絵本の勉強をするはるか前、長女のためにつくった一冊。「講座で学んでからは、製本を得意としていたんですが、『はるさん~』をプロの方につくっていただいたら、全然違いますね。灰かぶりがシンデレラになりました(笑)」(写真提供:たださん)