「阿弥陀さまとお浄土の話」という紙芝居

酒井さんはその日、平服で現われました。そして驚いたことに、A4用紙20枚にもわたる「阿弥陀さまとお浄土の話」という紙芝居のような冊子を持ってこられました。何でもその日のために何晩か徹夜して作ってきたとのことです。それを使って阿弥陀さまとお浄土の話をすることになりました。

2つのパートに分かれているのですが、第1幕は「阿弥陀さまについて」。ポイントをまとめると、次のような話でした。

阿弥陀さまとは、「働き」のことです。どこかに「阿弥陀さま」というお姿の仏さまがいるのではありません。阿弥陀さまとは、人間を目覚めさせる働きのことです。

働き、それは風のようなもの。風には色も形もないけれど、ときに優しく頬を撫で、ときに激しく身を揺らす。まるで眠っているかのような人間を、ときに優しく、ときに激しく揺り動かし、目覚めさせる働き。それを阿弥陀さまと言うのです。

阿弥陀さまには二つの呼び名があります。ひとつは、「アミターユス」です。古代のインドの言葉で「限りないいのちの仏さま」という意味です。もうひとつは「アミターバ」、「限りない光の仏さま」という意味です。だから阿弥陀さまとは「限りないいのちと限りない光の仏さま」という意味なのです。

阿弥陀さまは、時代を超えて、闇を照らし続けてくださっています。

それでは闇はどこにあるのでしょうか。それは私たち一人ひとりの心の中にあります。でもそればかりではありません。闇は時代そのものや社会そのものにもあるのです。

そして阿弥陀さまは寺の本堂の中だけにいるのではなく、変幻自在にあちらこちらに出没します。たとえば被災地。苦しみや悲しみを抱えた被災者のとなりに阿弥陀さまのはたらく場所があります。大都会で人に囲まれながらもひとりぼっちだというさみしさのとなりに阿弥陀さまのはたらく場所があります。

それから酒井さんは阿弥陀さまから呼びかけられる声の話をされて、15分が過ぎたところで休憩に入ったのですが、母は酒井さんを質問攻めにしました。

「あなたね、阿弥陀さまには全然、形もないって言うのに、仏像があるじゃない。なんで仏像があるのよ」

ちょっといい加減にしろよ、みたいな質問をするのですが、酒井さんは優しいから、「ああ、それはですね」と言って、形もないものではやはり人間には認識できない。仏像という形に顕されているけれど、その形を超えて様々なところに顕れる働きのことなのです、と丁寧に説明してくださいました。