「みんなに呼びかける存在となるのね」

第2幕は「お浄土編」。およそ次のような話でした。

浄土、それは清らかな世界、阿弥陀さまの世界のことです。浄土、それはさまざまな表現で、物語が書かれている世界。浄土、それは私たちの住む、この世を穢土(えど)として見つめる批判原理です。浄土からの光に照らされて、この世が実は穢土であったことを知り、その穢土をわが世界として生き抜くことが始まるのです。

穢土とは嫉妬や殺意から互いが共存するのが難しい世界です。しかしその闇を自覚しながら、自らの責任で立ち上がり、私たちはその現実を生きていくのです。立ち上がり、歩き出す。そのことを浄土は私に呼びかけているのです。

浄土とは、呼びかけの世界。私より先に生きた人は、浄土という精神世界から、今を生きる者たちに呼びかける存在となる。「迷うな、生きろ」と。だからあとに生きる人は、先祖をとぶらうのだ。多くの人びとが限りないいのちと光を仰いで生きてきたように……。

それを聞いた母がすぐさま反応しました。

「そうか。私は死んでから、みんなに呼びかける存在となるのね」

そこには何か深い納得が感じられました。

それはぼくにとっても、とてつもない体験でした。そしてそれまでもたくさん語ってきた「宗教」というものの、まだまだ知らなかった奥深さ、この世界のありがたさが開けてきた時間でした。

ぼくと母が酒井さんにお願いしたのは、阿弥陀さまとは何か、お浄土とは何かという「説明」でした。後から聞くと、「30分で阿弥陀さまとお浄土の何が語れるのか。ぼくが小さいときから聞いた阿弥陀さんのお話、お浄土のお話、大学の恩師たちからうかがった話などを全部思い返しながら、紙芝居をつくらせてもらいました」とのことで、酒井さんにとっても人生を振り返る大きな場であったとのことです。