ガイドさん、ありがとう
最終的にバスツアーの何がすごいかって、ガイドさんの力である。
前述したけれど、旅行における幹事、仕切り屋とは本当に面倒くさい。そのすべてを担ってもらうのが、彼女たちだ。この日の担当ガイドさんは、いわゆるベテランガイドさんで、話し方も対応も穏やかだった。朝8時、眠そうな乗客を相手にしながら、
「右手にうっすら見えるのが富士山ですね。さあ、これからあのレインボーブリッジを渡ります」
と、終始押しつけがましくない程度の笑顔をキープ。老夫婦が「前の席がいい」といえば、すかさず調整。集合時間に遅れる客がいても態度を変えず、私たちにも「お待たせして申し訳ありません」と謝罪。この日は大したトラブルはなかったけれど、他ツアーでは辛酸を嘗めるような思いもしているはずだ。小中高生の遠足や修学旅行で、さんざんお世話になっていたバスツアーはずなのに、彼女たちのケアに気づきもしなかったガキンチョだったこと、どうか神様お許しください。
帰路のバス内は乗客が1日中遊んで疲れて寝るか、興奮気味のまま喋り倒すかの二手に分かれていた。聞こえてくる会話のほとんどは、夫と子どもの文句ばかりというのが、改めて参加者の年齢層を感じさせる。ただ都内の電車内のように、無心になってスマホをいじる姿はなく、各々に窓越しの景色を楽しんでいた。これも旅行の醍醐味。
ガイドさんはゴールの東京駅が近づくと、寝ている人を起こす目的も含めて、再度、案内を始める。
「右手をご覧いただくと、皇居をバックにした結婚式の前撮りカップルがいらっしゃいますね。そしてご覧ください、期間限定のアイススケートリンクもございます。今日1日いかがでしたか?」
出発時はガイドさんの案内に耳を傾けていなかった参加者が、終盤にもなると、全員が案内通りに窓をほうを向く。そして拍手と歓声。この一体感、ああ、なんだか箱根マラソンのクライマックスのようにドラマティックじゃないか。今日、見ず知らずの40人近くが最終的に“和を持って尊しとなす”となれたのは、ガイドさんの功績は大きかったと感じたところで、1日は終了。さて次はどこを旅しようか。宿泊つきプランもいいなあ。