コペカチータ
「舞台は廻る」のために、服部が書き下ろした「コペカチータ」(47年11月発売)という不思議な曲がある。
「不思議なリズムだ」の歌い出しでリズムもメロディも次々と変転していく。
スペイン風のサウンドで、一曲の構成がパッションに満ちた情熱的なオペレッタで、しかもジャズのイデオムである。
エキゾチックで前衛的、シヅ子の声質を最大限に活かしての実験的野心作である。
スウィングのリズムで始まり次々と変転、ルンバになり「クカラチャ」のフレーズがちらっと出て、南国モードに入ると「君よ知らずや」と、戦前流行のオペラ「ミニョン」の「君知るや南の国」を連想させる歌詞が心憎い。で「それはコペカチータ」となる。
服部による歌詞は、常にリズムと連動し、メロディと繋がっている。で、間奏はまたタンゴになる。この不思議なリズムを「コペカチータ」という謎のフレーズでまとめ上げる。
シヅ子は舞台で、この「コペカチータ」をエノケンと一緒に唄ったのだが、掛け合いのパートで、エノケンが間違えて「一つ余計に歌って」しまったことがあった。
それがおかしくて、おかしくて、シヅ子は吹き出して歌えなくなってしまった。
するとエノケンは「自分で間違えた責任上、ご自身も笑いたかったに違いないのですが」最後までシヅ子のパートも一人で歌った。と、笠置シヅ子は、1970(昭和45)年に榎本健一が亡くなった時に追悼文集「エノケンを偲ぶ」で回想している。
※本稿は、『笠置シヅ子ブギウギ伝説』(興陽館)の一部を再編集したものです。
『笠置シヅ子ブギウギ伝説』(著:佐藤利明/興陽館)
2023年NHK朝の連続テレビ小説、『ブギウギ』の主人公のモデル。
昭和の大スター、笠置シヅ子評伝の決定版!半生のストーリー。
「笠置シヅ子とその時代」とはなんだったのか。
歌が大好きな風呂屋の少女は、やがて「ブギの女王」として一世を風靡していく。彼女の半生を、昭和のエンタテインメント史とともにたどる。