思いやりをさまざまな人を経由して届ける

思いやりが強い方にありがちなのが、つらいからといって、行政やボランティア、ホームヘルパー(在宅で生活している方々の家に訪問し、介護や生活援助を行う者)といった「外の人たち」に頼ってしまうと「思いやりのない人と思われてしまうのではないか」「親戚や近所の人たちに介護を他人に任せている薄情な人間だとうしろ指をさされるのではないか」という妄想にとらわれてしまうことです。

そして、どんどん自分で抱え込んでいって介護の苦しみから抜け出せなくなってしまう。

とりわけ高齢の方に「介護は、家族だけで行うもの」という昔の名残(なごり)があるように感じます。

「思いやりを捨てろ」と言っているのではありません。

自分だけでなんとかしようと思わず、自分の家族、親戚、制度や道具などをどんどんと利用して、「あなたの持つ思いやりをさまざまな人を経由して届けることもしましょう」と言っているのです。

私が訪問看護ステーションを運営していたとき、こんなご夫婦の話を聞きました。

ケアマネージャーが作成したケアプランに沿って、毎週1回、訪問による身体介助と生活援助を依頼されていたのですが、ホームヘルパーのスタッフが調理や洗濯、掃除などの援助を毎回申し出ても、介護する奥さんがいつも「私がやりますから大丈夫ですよ」と援助の手を拒んでいらっしゃいました。

それでもケアマネージャーたちが「遠慮なくいつでも頼ってください」と粘り強くお伝えし続けたそうです。

それが功を奏(そう)したのは、奥さんのお顔に疲労の色が目立ちはじめたころのこと。ようやく生活援助についても受け入れてくれるようになりました。

「こんなにラクをできるのなら、もっと早く甘えればよかったわ」

ほっとした笑顔でそう言われたときの表情が忘れられないと、ケアマネージャーはうれしそうに話してくれました。