「地域包括支援センター」は、市町村が設置している機関で、地域の高齢者の相談や介護の予防支援などを行っています。厚生労働省の発表によると、2022年時点で全国5,404ヵ所(支所を除く)に設置されているそう。そのようななか「介護を助けてくれるものが、あなたの周りに実はたくさんあります」と語るのは、看護師、看護・介護ジャーナリストの坪田康佑さん。その坪田さんいわく「最もつらかったのが、長年連れ添ってきた家族の心が離れていく瞬間を見ること」だそうで――。
介護は「自分を犠牲にして尽くすもの」ではない
「そこに段差があるから気をつけて」
そう言って、家の中を寄り添って歩く姿。
「いま、ご飯の準備をするから、少しそのままで待っていて」
そうほほえみかけて、急いでご飯の準備にとりかかる姿。
そんな甲斐甲斐(かいがい)しく介護をしている様子は、実に仲睦(なかむつ)まじく、「自分もこのような老後を送ることができたら」「家族仲がよくていいなぁ」と、うらやましくさえうつるかもしれません。
介護に直接携(たずさ)わるまでの私もそう思いながら、そんな風景を見ていました。
しかし、今はそのような場面に遭遇すると、「この後2人は、大丈夫だろうか?」という不安が先に立ってしまいます。
私は、無医地区でのクリニックや訪問看護ステーションを開業して、そして、自らも看護師として、介護の現場に立ち会いました。
その中で最もつらかったのが、長年連れ添ってきた家族の心が離れていく瞬間を見ることでした。
そして、仲睦まじい夫婦、愛情が深い家族であればあるほど、思いやりの気持ちが強い人であればあるほど、時間の経過とともに苦しむケースが多かったのです。
最初は愛情をこめて接していたのが、日に日にやつれていき、「早く死んでくれないかなと思うときがあるんです」と自己嫌悪から泣きじゃくる方。
「もう、すべてを投げ出したい……」
介護に一生懸命になりすぎたため、部屋が荒れ果て、ごみ屋敷と化した部屋でそう呟いている方。
思いやりのある方ほど、そんな「幸せとは無縁の介護」になってしまっている現状に出合ってきたのです。