見えないゴリラ

では被験者が事前に強盗が起きることを知っていて、何に注目しなければいけないかもわかっていたら、どうなっていたでしょうか。もちろん、目撃談はもっと正確になったはずです。何に意識を向けるべきなのかわかっているのですから。

『メンタル脳』(著:アンデシュ・ハンセン, マッツ・ヴェンブラード 翻訳:久山葉子/新潮社)

しかし、その時に「道路を通る白い車の数を数えるように」と指示されていたら、強盗が起きていることすら目に入らないかもしれません。犯罪には当然目がいくはずだと思うでしょうが、必ずしもそうではないのです。

有名な実験で、白いユニフォームと黒いユニフォームの2チームがそれぞれのチーム内でバスケットボールをパスしていく動画を観せ、「白いユニフォームのチームが何回パスするかを数えてください」と指示したものがあります。数える人たちにとって黒いユニフォームのチームのパスは集中を邪魔する存在でした。

被験者が数えるのに夢中になっていると、ゴリラの着ぐるみが現れ、選手たちの間をのんびりと横切ります。それで被験者の集中が途切れたと思いますか? なんと被験者の約半数がゴリラに気づきもせず数え続けていたのです。

これは人間の集中力の限界を表す良い例です。私たちは1度に1つのことしか集中出来ません。この実験からも、脳が与えてくる外界のイメージをそのまま信じてはいけないことがよくわかるのではないでしょうか。