「そういえばお母さん」
「なに」
「昨日、ばったり志織(しおり)ちゃんに会ったのよ。覚えてる? 〈喫茶カノン〉にいた美人の後輩の志織ちゃん」
 しおりちゃん? ってなみえちゃんは少し考えて、あぁ、って手でテーブルを軽く叩いた。
「紺野(こんの)志織ちゃんだったね。あそこの田島(たじま)さんの姪(めい)っ子の」
「そうそう」
 こんのしおりさん。田島さんの姪っ子さん。全然知らない人。聞いたこともない。
 こんの、って夏夫(なつお)くんと同じ名字だけどまさかね。
「あの子、高校辞めたんじゃなかったっけ? なんだか問題起こして」
「違う違う。辞めてない。最後はほとんど行ってなかったらしいけど、卒業はしたはず。そう、だから会ったのは彼女が高三のとき以来だから、お互いにびっくりしちゃって」
「そうかい。志織ちゃんね。元気だったのかい?」
「元気だった。なんか、あたりまえだけどますます美人になってて大人の色気があって。保険の仕事してるって。息子さんと二人暮らしだって」
 なみえちゃんが急に大きく頷(うなず)いた。
「あぁ! そうそう、妊娠(にんしん)しちゃったんだったねあの子! 志織ちゃん! はっきり思い出した。そうそうものすごく美しかった看板娘!」
 妊娠しちゃった?
「ねぇ、そのこんのしおりさんって、さよりちゃんの後輩?」
「そう。みちかちゃんは全然知らない人。十数年ぶりの再会かなー。同じ高校出ていて同じ町にいたはずなのに会わないものなんだよね」
「昔ね、あんたのお祖父(じい)ちゃんが工事した喫茶店でバイトしていたんだよその子」
 お祖父ちゃんは電気工事関係の仕事していたっけ。じゃあ、その喫茶店の工事もしたってことか。
「私と同じ高校行っていたのよ志織ちゃん。三つ下だから一緒には通ってなかったけどね。とにかく美人さんだって評判で。私もよくその喫茶店に行ってたからよく知ってたの」
 なるほど。