〈カラオケdondon〉の奥まった一室。そこは通称〈バイト・クラブ〉のための部室。ここの部員になるための資格は、【高校生の身の上で「暮らし」のためにバイトをしていること】。渡邉みちかは祖母と母と3人暮らし。話をしているうちに、紺野家の思わぬ事実を知ることに……。

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渡邉(わたなべ)みちか 県立赤星(あかほし)高校二年生
ファミリーレストラン〈ロイヤルディッシュ〉アルバイト店員

 
「ただいまー」
「おかえり」
 玄関を開けたらすぐに台所。
 なみえちゃんがお風呂上がりで頭にタオル巻いたままテーブルのところでお水飲みながら小さなテレビを観ている。ほぼ毎日の、私が帰ってきたときのいつもの光景。
 テレビは居間に大きいのがあるんだけど、なみえちゃんは何故かこっちの小さいのを観てることが多い。まぁ二つあると観たい番組が違うときに便利なんだけどね。
 そして私の母方の祖母は〈お祖母ちゃん〉と呼ぶと機嫌が悪くなる。名前のなみえちゃんと呼んでほしいって。
 可愛いんだ。分かる、私もきちんと名前で呼んでほしいって思うし。でもなみえちゃんって呼び出したら「じゃあお母さんは?」ってことになって、お母さんは私のことを「みちか」って呼び捨てにするから「じゃあ、さより?」って言ったら、さすがに呼び捨てはないだろうってことで〈さよりちゃん〉になった。そして私のことも〈みちかちゃん〉とちゃん付けになった。
 私が小学校一年生の頃の話だ。まだ、お父さんも一緒に暮らしていて、なみえちゃんも一緒に暮らし始めたとき。じゃあお父さんは〈健司(けんじ)ちゃん〉って呼ぼうかという話はまったく出なかったのは、どうしてなんだろうってちょっと思ったけどね。お父さんは、そのままお父さんだった。
 人呼んで〈ひらがな三世代〉。
 なみえ、さより、みちか。
 なみえちゃんがひらがなだった影響もあるとは思うけど、合わせたわけじゃない。