「制度的無能状態」という落とし穴

なぜここまで会社には真の意味での仕事/価値を創り出す「経営」をおこなっている上司がいないのだろうか。その一つの理由は、次に示すような「人は無能になる職階にまで出世する」という数理的に証明できる法則があるためである。

『世界は経営でできている』(著:岩尾 俊兵/講談社)

条件1:組織はピラミッド状であり複数の階層(職階)が存在すると仮定する。
条件2:ある職階において最も成績が良かったものがより上位の職階に就く(成績が悪い場合にも降格・解雇はされない)と仮定する。
条件3:複数の職階において求められる能力はそれぞれ異なると仮定する。
条件4:個々人が持つ能力値はランダムに割り振られ、異なる能力間に相関関係はないと仮定する。

これらは特に現代の官僚制組織ではありそうな状況だろう。

さてこの四つの仮定が揃うとどうなるか。

まず特定の職階で優秀だったものが次の職階でも優秀である確率は低い。ただし上位階層のポストの数は少ないのでこれ自体はあまり問題でもない。問題なのは、確率論的にいって「特定の職階では優秀だったが次の職階では優秀でない人」が多数いるということだ。

彼らは新しい職階では評価されないため、さらに上位の職階に進まずに適性のない職階にとどまることになる。こうしたことがあらゆる職階で起こると組織の上層部は無能だらけになるわけである。

数理的にいっても職階の数が多い組織ほどこうなる。ただしこれはあくまで先ほどの四つの条件が揃った場合であり、現実の健全な組織はこうした罠に陥らないように四条件のうち一つ以上を回避する手を打っているはずである(たとえば、組織で働くすべての人が本書を読むことで普段の仕事を経営視点で捉えるようになることでも、条件3・4の仮定は簡単に崩れる)。

といって仕事における喜劇の数々に苦笑しているばかりではいけない。

上司が無能だと笑うのは簡単だが現実はそう単純でもない。おそらくすべての人が大なり小なりこうした無意味な仕事もどきを作りだしている。本当の責任はすべての人にある。