悪書追放運動

物理学者は、細かいことは分からなかったけれど、ファンタジーやSFを読んでいて、生命や地球の成り立ちや時間の観念に興味を引かれ、憧れていたのです。

ただ真剣に考えてみると、自分が一番夢中になっていたのは、宇宙旅行や生命の成り立ちを見せてくれたマンガだったのです。

その頃は、悪書追放運動のまっ最中。

このままではマンガは大人たちの激しい攻撃に滅ぼされてしまう。でも絶対に生き残らせたい。そう考えていた頃、ふと気づきました。

その頃から映画を見はじめたのですが、素敵な作品がたくさんあるのです。映画が生まれたのが1890年代。まだ70年くらいしか経っていませんでした。

映画が生まれた当初は、列車が近づいてくるだけとか、タバコ工場の昼休みに女の人たちがゾロゾロと工場から出てくるとか、たったそれだけの映像です。それを見て大人たちはびっくりしていました。

それからたった70年で、映画は瞬間芸から哲学まで語れるようになりました。だから絶対マンガもそうなるだろうと思ったのです。

 

※本稿は、『漫画を描くー凛としたヒロインは美しい』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。


漫画を描くー凛としたヒロインは美しい』(著:里中満智子/中央公論新社)

1960年代のデビュー以来、数々のヒット作を世に送り出してきたマンガ家・里中満智子。近年は自らの創作のみならず、日本マンガ界を牽引する立場としての活動も高く評価され、文化功労者にも選出された。

「すべてのマンガ文化を守りたい」との想いを胸に走り続けてきた75年の半生を自ら振り返り、幼少期から現代、そして未来への展望までを綴る。