「自分は他人から必要とされている」

訪問先は、古めかしい県営住宅に住む、70歳前後の男性でした。

久しぶりに愛用のハサミを手にして、ボサボサで伸び放題だった髪を丁寧にカットしてスッキリさせると、その高齢男性は私の目を見て「ありがとう。ありがとう」と何度も感謝してくれました。

『マッチョ介護が世界を救う! 筋肉で福祉 楽しく明るく未来を創る!』(著:丹羽悠介/講談社)

暗い絶望の底にいた私にとって、その言葉は希望の光のようでした。

「こんなダメダメな自分に『ありがとう』と感謝してくれる人がいる!」と思うだけで、胸がギュッと締め付けられるような気持ちになったのです。

1979年にノーベル平和賞を受賞した修道女マザー・テレサは、「この世で最大の不幸は、人から見放されて『自分は誰からも必要とされていない』と感じることなのです」という言葉を残しています。

逆に言うなら、この世で最大の幸せは、「自分は他人から必要とされている」と感じることではないでしょうか。

初めての介護の現場で、心からの「ありがとう」という言葉に心を揺さぶられた私は、他人から必要とされる介護という仕事の素晴らしさに目を開かれました。

それと同時に、「介護士は、ひょっとしたら美容師よりもクリエイティブな仕事かもしれないぞ!」という興味も湧いてきました。

お客さんの要望に合わせてヘアスタイルを作り上げる美容師は、確かにクリエイティブな仕事です。

でも、『シザーズリーグ』などのメディアで、スポットライトを浴びていたのは、小手先のテクニックの競い合い。ヘアスタイルが、お客さんの人生に何をもたらすかまでは、多くの美容師は考えていないでしょう。少なくとも、私はそうでした。

美容師が関わるのは、もっぱら首から上だけ。一方、介護という仕事は、利用者とその家族の方々の人生全般に丸ごと関わります。果たしてこれ以上にクリエイティブな仕事があるでしょうか。