歯痒さの捌け口
私以外の2名は、経験豊富な介護士。私もやるべきことは、きちんとやっていたつもりでしたが、他の事業者がクレーマー扱いして匙を投げているだけあり、2組ともかなり個性的でサポートするのは容易ではありませんでした。
部屋の掃除を終えても、小さな埃でも気になるのか、「まだ、あそこがキレイになっていないだろ!」と怒られることもしばしば。寝たきりに近くても両腕が自由になるので、モノが飛んでくる日もありました。
外出がままならず、自宅に引きこもっていると、3度の食事は大きな楽しみですから、食へのこだわりも相当強いものがありました。
私たちは好みを聞いて、予算の範囲内で食材の買い出しをして、キッチンを借りて調理をします。それでも「美味しくない!」と、お膳をひっくり返されたこともありました。「お前のせいで食材が全部無駄になった。弁償しろ。そのお金でお弁当を買ってこい!」と無茶振りをされたこともあります。
この2組の共通点は、現役時代はバリバリに仕事をしていたということ。仕事でも日常生活でもアクティブだったからこそ、身体が自由に動かない現状に歯痒い思いが人一倍強かったのでしょう。私たちは、その歯痒さの捌け口になっていたのでしょうか。
こちらは、真摯なサービス提供を心がけているつもりでしたが、クレーマーの態度は一向に軟化しません。
私以外の2人のベテラン勢ですら、「もうあの夫婦のところには行きたくない」と弱音を吐くようになってきました。
私自身、毎回胸を躍らせて訪問していたわけではありません。それでも、もう少し真正面から向き合ってみようと思っていました。
他の事業者から煙たがられていた要因は、第一にハラスメントまがいの要求を投げつける利用者自身にあります。
でも、そうした彼らに胸襟を開いて正面から向き合わなかった事業者側にも、彼らの理不尽な言動を引き出す誘因があるのではないかと考えたのです。