“新鮮な自分”でいるために
前作の『万引き家族』がカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したこともあり、国内外で評価をしていただきました。でも、「是枝組」とか「是枝ワールド」と言われ始め、自分の作品のカラーが限定されてしまうのは、ものを創る人間にとって、実は危険なんじゃないか、と。
50代半ばを過ぎて、映画を撮ることにも、人生に対しても、ちょっぴり飽きてきたところがあったので、ここで自分自身に少し負荷をかけて、新鮮な気持ちで映画に向き合いたい。そのために、これまでとはまったく違った環境に自分を置いてみようと思ったのです。
そんな心境で監督した今回の新作『真実』は、これまで僕が撮ってきた映画とはかなりスタイルが違っています。主演のカトリーヌ・ドヌーヴをはじめ、ジュリエット・ビノシュやイーサン・ホークなど、キャストは全員フランス人かアメリカ人でした。
ロケ場所がパリということもあり、フードスタイリストの飯島奈美さんを除いて、撮影カメラマン、音楽、美術、衣装などのスタッフさんたちもすべてフランス人。当然のことながら、現場でのコミュニケーションは99%がフランス語でした。僕自身はひとこともフランス語が喋れないので、優秀な通訳の方に横についてもらって撮り上げた作品です。
主演をカトリーヌ・ドヌーヴにオファーしようと決めたのも、彼女がこれまでの僕から最も遠い存在だったから。60年近く、フランス映画の華としてキャリアを重ねてきたドヌーヴは、時代こそ違うけど、僕にとってはマリリン・モンローやイングリッド・バーグマンと同じような映画スターです。
でも、だからこそ一緒に仕事をしてみたかった。この作品の主役は“大女優”じゃなきゃ務まりませんでしたし。自分自身をリセットするために、可能な限り遠くまで球を投げてみようとしたときに、彼女が一番手の届かない存在だったんですよ。