人間の顔は立場によって変化する

ただ、「血縁」というよりも、僕は「人と人とが結びつく関係性」のほうに興味があるのだと思います。『万引き家族』では、犯罪という行為で結びついた血のつながらない家族を描きましたが、彼らはラストでバラバラになった後に初めて本当の家族になっていく。

リリー・フランキーさんが演じた男が、同居していた少年に「父ちゃんと呼べ」と言っていた間は父親になれなくて、「おじさんに戻るよ」と言った後に本当の父親になれた。濃密な時間と記憶を共有した者同士は“家族”になれる――そんな関係性を描いてみたいと思ったんですね。

また、ひとりの人間の、立場によって変化する多彩な顔を描けるという意味で、「家の中」というのはとても便利な場所なんですよ。今回の『真実』でも、ドヌーヴは妻であり母であり祖母であり姑であり、女優という職業人でもある。

そんないくつもの顔を見せながら、ドヌーヴが演じる母とビノシュが演じる娘の関係で、いったい何が“真実”なのか。今、この場で語ると核心に触れてしまうので、それは、ぜひ劇場で観て確かめていただければと思います。