僕は母から逃げてしまったのかもしれない

僕の母は、僕が40代のときに亡くなっています。今でこそ感謝はしていますけど、生前はその愛情が重かった。父親が頼りない人だっただけに、母は「末っ子長男」の僕に過剰な期待をかけていました。限られた間取りの団地住まいだったため、北側の4畳半を姉たち2人にあてがい、僕ひとりだけに南側の部屋を与えてくれた。おかげで、いまだに姉たちから文句を言われます。(笑)

ある週刊誌が、「映画監督になりたいという僕の夢を叶えるために母がパートで働いて支えてくれた」という美談めいた記事を載せましたけど、まったくのウソ。実際は、「毎月きちんとお給料がもらえて、夏にはボーナスが出る公務員になれ」って、母はずっと言い続けていましたから(笑)。

僕が30代で商業映画を撮り始めたらようやく認めてくれた。そうなったら今度は、僕の作品のビデオを何本も買い込んできて、団地の方々に配ったり。近所の人たちもさぞ迷惑だったと思います。

とはいえ、最後の数年間、母にひとり暮らしをさせてしまったことは今でも後悔しています。乳がんを患ったせいか母は気分が沈みがちになって、たまの正月休みに実家に帰省しても、朝から晩までグチばかり。そんな状況に耐えられなくて、僕は母から逃げてしまったのかもしれません。

自分では「もうファミリードラマはいいや」と思いつつ、前作の『万引き家族』も今回の『真実』も、結果として、家族を軸に描いた作品になっている。なぜそうなってしまうのか? 正直な話、僕自身にもよくわかりません。誰かに分析してほしいくらいですね。(笑)