あの生活が、今の私の礎

ちなみに私を雇ってくれたのは、イタリアンと、フレンチのレストランと、焼き肉店。のちのち、寿司屋でも働いた。コーヒーの専門学校に通おうとしていたくらいなのでコーヒーショップでも働いてみたかったけれど、めぼしいチェーン店は軒並み面接を受けて、そして、全部落ちた。

日中のシフトが多いせいか、芸能事務所に入っているというだけで、オーディションがあればすぐに休まれると困ると思われたらしい。

パズルのようにスケジュールを組み立て、あのころの私は四六時中働いていた。今とは違う意味で忙しかったけれど、充実していた。そうして無理をしてでも舞台や映画館に通い続けたあの生活が、今の私の礎になっている。

 

※本稿は、『余白』(NHK出版)の一部を再編集したものです。

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余白』(著:岸井 ゆきの/NHK出版)

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