穎右と結婚をして子供を産み、家庭に入ることを決意したシヅ子でしたがーー(写真提供:Photo AC)
NHK朝の連続テレビ小説『ブギウギ』。その主人公のモデルである昭和の大スター・笠置シヅ子について、「歌が大好きな風呂屋の少女は、やがて<ブギの女王>として一世を風靡していく」と語るのは、娯楽映画研究家でオトナの歌謡曲プロデューサーの佐藤利明さん。佐藤さんいわく「シヅ子は穎右と結婚をし、子供を産み、家庭に入ることを決意した」そうで――。

箱根へ

将来を約束した笠置シヅ子と吉本穎右は、晴れて一緒になる日を夢見て、互いに忙しい日々を過ごしていた。

エノケンとの初共演「舞台は廻る」を終えたシヅ子は、1946(昭和21)年5月に穎右と、マネージャーの山内義富と三人で箱根に静養に出かけた。

そこで穎右は来月早々、大阪に戻って、シヅ子とのこと、これからの仕事のことを「なるべく早く適宜に処理します。あとのことは、どうかよろしくお願いします」と山内に頼んだ。

その後、準備を整えた穎右は大阪へ帰ることに。6月16日、シヅ子は山内とともに、琵琶湖まで見送った。

湖畔の宿で一夜を過ごし、翌朝、大津駅での別れ際、穎右は「では、ちょっと行ってくるさかい……秋には東京へ帰れるやろ」と車窓から手を振った。

しかし、それが永遠の別れになるとは、シヅ子も穎右も思ってもいなかった。

この頃、すでに穎右は、学生時代に患って完治していなかった結核が再発していたのである。