ブギの女王誕生す!
リリースは翌年の1月に予定された。
その前に11月には前年の「舞台は廻る」の挿入歌「コペカチータ」と新曲「セコハン娘」がリリースされることになっていた。
ほどなく9月、大阪梅田劇場の舞台で初披露され、10月には、杉浦幸雄、近藤日出造、横山隆一たち漫画家のグループ「漫画集団」の企画による東京有楽町・日劇の「踊る漫画祭・浦島再び龍宮に行く」五景(作・演出・山本紫朗)で歌って注目を集めた。
そしてレコード発売に合わせて、東宝の正月映画『春の饗宴』で主題歌としてフィーチャーされることになった。もちろんその間に、ラジオでも「東京ブギウギ」は流れて、巷で唄われるようになっていた。
それがあっての『春の饗宴』での「皆さま、余程お好きなんですね」だったのである。
この「東京ブギウギ」の大ヒットで笠置シヅ子は「ブギの女王」となる。
太平洋戦争直前、内務省による敵性音楽への締め付けが厳しくなり、ジャズ歌手として活躍していたシヅ子も「ジャズはけしからん」との理由で、警視庁から呼び出された。
戦意高揚の時局にふさわしくないと、ステージではマイクの前で「三尺四方はみ出してはならない」と指導を受けたほどだった。
それから8年、「三尺四方」の制約から解放されて、舞台の端から端まで、身体を揺らせてジグザグに動き、踊りながら「東京ブギウギ」を満面の笑みで唄う笠置シヅ子は、戦後ニッポンの復興のエネルギーの象徴となった。
長くつらい戦争、数々の制約と、幾つもの悲しみに耐えて、生き抜いてきた日本の庶民たちが、敗戦のショックから立ちあがろうとする活力の源が「東京ブギウギ」であり、稀有な才能を持つエンタテイナー、笠置シヅ子の「底抜けの明るさ」と、身体と声からみなぎる「爆発的なエネルギー」だったのである。
※本稿は、『笠置シヅ子ブギウギ伝説』(興陽館)の一部を再編集したものです。
『笠置シヅ子ブギウギ伝説』(著:佐藤利明/興陽館)
2023年NHK朝の連続テレビ小説、『ブギウギ』の主人公のモデル。
昭和の大スター、笠置シヅ子評伝の決定版!半生のストーリー。
「笠置シヅ子とその時代」とはなんだったのか。
歌が大好きな風呂屋の少女は、やがて「ブギの女王」として一世を風靡していく。彼女の半生を、昭和のエンタテインメント史とともにたどる。