時代のニーズ

報告書の中には市区町村が遺族から回収できなかった葬祭費を都道府県へ弁済請求したものの突っぱねられ、泣く泣くあきらめた事例が相次いでいた。

葬祭扶助の増加に頭を悩ませる厚労省や総務省は相続人と連絡がつかない、疎遠を理由に弁済が見込めないケースでも都道府県の弁済の対象になりうるとしているが、「国は及び腰で法改正などできちんと決めてくれない限り、問題は解決しない」と市区町村のベテラン担当者はため息をつく。

そもそも墓埋法は1948年(昭和23年)制定の法律だ。

「法ができた時、引き取り手のない遺体というのは、身元不明者しかあり得ない時代で、身元がわかっていながら家族など引き取り手が誰もいないということは想定されていなかった。だが、高齢化と核家族化が進む今は引き取り手のない死者は増える一方で、現実的に対応できなくなっている。法改正をするべき」と先のベテラン担当者は指摘する。

内閣府「高齢社会白書」によると、日本の総人口(2021年10月現在)1億2550万人のうち、65歳以上は3621万人。

高齢化率は2023年、世界で最も高い29.1%となった。高齢単身者が増加し、男性で15%、女性では22%を占める。手遅れにならぬうちに、時代のニーズにあうようにすべきだろう。

※本稿は、『ルポ 無縁遺骨 誰があなたを引き取るか』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。


ルポ 無縁遺骨 誰があなたを引き取るか』(著:森下香枝/朝日新聞出版)

2022年7月、都内の病院で死去した女優・島田陽子さんの遺体の引き取り手はなく、居住区だった東京都渋谷区が引き取り火葬した。21年度、自治体が遺体を葬ったケースは約8600件に上る。高齢化と孤立化で「無縁遺骨」になる可能性は誰にでもある。その実態と墓じまいの現状を追う。