世界遺産登録の本来の意味
富岡製糸場の事例を踏まえて言いたいのは、自分たちの町、地域の遺産をいかに観光のために整備できるか、より総括的に考える必要があるということ。もしくは世界遺産への登録が、本当の意味で観光振興につながるのか。
地元の人たちや関係者たちが、それらの問いを吟味した先に、世界遺産登録の本来の意味は生じます。
そこを詰めないまま、「世界遺産登録=観光客誘致の切り札」と短絡させるだけでは、物見遊山的にやってきて、「失望した」と文句を拡散する人を増やすだけです。
日本人が大切に守ってきた場所ならば、世界のブランドに頼る前に「日本が認めた」「自分たちが大切にしている」という視点を、今一度磨いていくべきでしょう。
※本稿は、『観光亡国論』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
『観光亡国論』(著:アレックス・カー、清野由美 中公新書ラクレ)
右肩上がりで増加する訪日外国人観光客。京都、富士山をはじめとする観光地へキャパシティを越えた観光客が殺到し、交通や景観、住環境などでトラブルが続発する状況になっている。本書は作家で古民家再生をプロデュースするアレックス・カー氏とジャーナリストの清野由美氏が、世界の事例を盛り込みながら、建設的な解決策を検討する一冊。真の観光立国を果たすべく、オーバーツーリズムから生じる問題を克服せよ!
出典=『観光亡国論』(著:アレックス・カー、清野由美 中公新書ラクレ)
アレックス・カー
東洋文化研究者
1952年、米国生まれ。64年から66年まで父の赴任に伴い、横浜に住む。74年、イェール大学日本学部卒業。72年から慶應義塾大学国際センターで日本語研修、74年から英国オックスフォード大学で中国学専攻、学士号と修士号取得。73年に徳島県祖谷で300年前の茅葺き屋根の農家を購入し、「篪庵(ちいおり)」と名付ける。77年から京都府亀岡市に居を構え、86年から93年まで米トラメル・クロー社の日本代表。90年代半ばからバンコクと京都を拠点に、東洋文化に関する講演、通訳、執筆活動を行う。近年、京都、祖谷、長崎県小値賀(おぢか)町、奈良県十津川村などで古民家を改修し、滞在型観光事業を営む。著書『美しき日本の残像』(93年、新潮社/2000年朝日文庫)は新潮学芸賞受賞。
清野由美
ジャーナリスト
東京女子大学卒、慶應義塾大学SDM(システムデザイン・マネジメント)研究科修士課程修了。草思社編集部勤務。英国留学を経て、91年よりフリーランスに。国内外の都市開発、デザイン、トレンド、ライフスタイルを取材する一方で、時代の先端を行く各界の人物記事に力を注ぐ。慶應義塾大学在学中、青井グローバルアワードを受賞。英ケンブリッジ大学客員研究員。著書に 『新・都市論TOKYO』『新・ムラ論TOKYO 』(*いずれも隈研吾氏との共著、集英社新書)、『セーラが町にやってきた』(プレジデント社/日本経済新聞出版社より文庫化)、『住む場所を選べば、生き方が変わる』(講談社) など。