これまでの学校は一定の制約の中で生活することを子どもたちに強いてきたがーー(写真提供:Photo AC)
生徒の立場からはその仕事内容が見えにくい校長先生という仕事。みなさんはどのような印象をお持ちでしょうか。「校長の意識さえ変われば、学校全体が必ず変わります」と話すのは、千代田区立麹町中学校で校長として400項目以上の教育改革を実行してきた、工藤勇一先生。現在は、私立の横浜創英中学・高等学校の校長として、画期的な教育改革を実行し続けています。工藤先生いわく、「自由な中で自律というものを学び取った子どもたちこそ、社会に出てから困らない」そうで――。

自分にとっての優先順位

子どもたちは、学校を卒業すると社会の中でいろいろな組織や規則の壁にぶつかることになります。

それを前提に、これまでの学校は、一定の制約の中で生活することを子どもたちに強いてきました。「そんなことでは厳しい社会じゃ通用しないぞ」などという教員たちの言葉が象徴的です。しかし、これも真実なのでしょうか。

むしろ、大人に言われたことを鵜呑(うの)みにすることなく、自由な中で一度自律というものを学び取った子どもたちこそ、社会に出てから全然困らないのです。たとえどんなに組織が硬直していても、くだらない規則があったとしても、逃げることなく真正面から対処できるのです。

なぜなら、彼らこそ問題が起きている原因がわかるからです。その原因をきちんと言葉で捉えて説明できるからです。

「麹町中(著者が校長として教育改革を行った千代田区の中学校)にいた子が高校へ進学したらきっと苦労するよ。むしろかわいそうだ」。ネット上でそんな批判めいたことを書く人もいましたが、それは本質をわかっていないからです。

服装が自由で金髪だった子が、規則の厳しい学校へ進学したとしても、実は全然へっちゃらなのです。どんな服装をするかなんて生きていく上で最重要ではない、という根本を理解しているからです。

たとえ服装を厳しく制約する学校があったとしても、その規則を変えるために学校と全ネルギーをかけて戦うことはしないと多くの卒業生たちが語ってくれました。服装へのこだわりは自分の中の一部で、その主張にエネルギーを使うよりもっと大事なことがある、とわかっているからです。

自分にとっての優先順位は決まっているので、特別にそのことにこだわらないのです。

「思ったとおり厳しい学校でしたが、僕が進学した理由は別にあるのでしょうがないんです」と、僕に愚痴をこぼしつつも笑いながら受け流している卒業生もいました。その生徒にとって、その学校に進んだ理由や意義が明確なのです。