少しでもおいしく、日々の楽しみになるように
刑務所の管理栄養士として採用された著者は、「刑務所の食事は受刑者が作ってるんだよ」と教えられる。へえ。それで、だれが教えるの? 「そりゃあ、栄養士さんだよ」。マジで? 怖い人が包丁持つ現場に私は行くの?
しかも女性の著者は、岡崎医療刑務所という男性の受刑者しかいない職場に料理を教えに行く。控え目にいって恐怖のみ。しかし離婚したばかりで子育てもしなければならない著者はいまさら引くに引けない。こうして刑務所での、受刑者とのご飯作りがはじまる。
言っておきますけど完全ノンフィクションである。具材や調味料を入れるたびに「ミョーガ入れます!」「しょう油入れます!」と報告し、刑務官が「よし!」と指さし確認する。料理経験はほとんどゼロ、エプロンを一度もつけてこなかったような受刑者たちとのやりとりはもはやコントである。
20人分の卵焼きを均等に切り分ける作業すら、恐ろしくてできない受刑者たち。「平等」に切り分けられないとどういうことになるのか、それはぜひ本書で確認してほしい。
いわゆる「クサい飯」と言われる刑務所の食事。世間的には「税金で贅沢させるな」などと言われる。けれど受刑者たちにとって、食事は生きていくなかで本当に数少ない楽しみなのだ。
人にも会えない、見たいものも見られないなかで、限られた予算でできるだけおいしいものを食べさせたいと願う著者と、作ろうとする受刑者たち。自由に会話もできないなかで「人の想い」という無言の会話がある。
から揚げも、時に手作りにすることで、時間はかかるが量と味をぐっと引き上げる著者と、料理することに目覚めていく受刑者たち。私たちは生きる希望を読むことになる。
バナナの皮やアルミ包装が一切使えない理由も刑務所ならでは。映像化してほしい。