副作用によって髪の毛が抜け始める

そのころから病院にはなるべく私が同行するようにしたが、それは妻一人では医師の話を聞き漏らしたり、検査の後の車の運転が危険なのではないかと考えたからだった。診察がなく、危険性のない検査だけの時には、妻は車を使って一人で出かけようとするのが常だった。

『凡人のためのあっぱれな最期』(樋口裕一著/幻冬舎)

その時点では、危惧していたよりは抗癌剤の副作用は大きくなく、自宅にいても、妻はときどき、横になることが増えた以外は、大きく病状が悪化することはなかった。

ただ、副作用によって髪の毛が抜け始めた。妻は元から帽子を愛用していたが、様々なタイプの帽子を購入、またウィッグも注文して、専門店にまで出かけていた。

髪の抜けた頭部を私にも見せることはなかったが、それについても特に気に病んでいる様子はなく、「こちらの方が似合うかなあ」などと言いながら、通信販売で帽子を選んでいた。そして帽子をかぶってあちこちに出かけていた。

市民講座にも参加し、以前と同じような生活を続けていた。妻は服装にはあまり気を遣わず、質素な服装で通し、ほとんどの衣料を通信販売やスーパーで購入していたので、それに安物の帽子のコレクションが増えた形だった。