しっかり原稿を用意しない理由
──面白いですね。普通はきちんと準備して原稿も用意するのが正しいと言われそうなのに、むしろ小倉さんはそうではない、と。
書いちゃうと、それに引きずられるんです。
加えてキャスターの場合は、目線の問題があります。テレビを見ている人は、ものすごくキャスターの目線が気になるものなんだよね。原稿やカンペに目をやると、そこに視聴者も気をとられてしまう。
まあ僕だって目が落ち着いてきたのって、「とくダネ!」やって何年かしてからですよ。それまでは落ち着きのない人で、一点をじっと見てられないんだよね。カメラのレンズの見方というのは難しいもんで、レンズを凝視するとものすごく顔がきつくなるんですよ。
だから基本はレンズの下を漠然とぼわっと見るぐらいの感じじゃないと駄目。
いま生きているカメラにはタリー(ライト)が付くでしょ。そのカメラを見ながら喋る必要があるので、当然、タリーを意識しながら僕ら見ていくわけじゃないですか。だからといって急にタリーのほうを向くと、もう目線が飛んでしまうのが分かるんだよね。これも視聴者は落ち着かない。
だから舐め回すような感じで目線を動かして、カメラを見るようにしないと駄目。
カンペが出てるときも、そっちばっかり見てると絶対、目の動きで分かってしまう。
実はそういうことに慣れてきたのは50歳過ぎてからだったよね。
※本稿は、『本音』(新潮社)の一部を再編集したものです
『本音』(著:小倉智昭、古市憲寿/新潮社)
「小倉智昭」と聞いて、どんなイメージが浮かびますか? 舌鋒の鋭さ、ふてぶてしさ? でも、その実人生はアップダウンの連続です。吃音(きつおん)だった少年時代、局アナからフリーに転じた後の貧乏暮らし、22年にも及んだ「とくダネ!」MC、がん闘病……そんな「まさか」の人生を、「とくダネ!」コメンテイターで年の離れた友人・古市憲寿さんを聞き手に振り返ります。驚きのエピソード、イメージとは違う意外な面が続々!