その後、公立の中学に転校したけど、LUNAはまったくやる気をなくしていたね。

 今度は共学だったから男の子がいて、小学校時代みたいに「マリックの娘だよ」って、またからかわれた。そういうのが面倒くさいのもあって、仲良くなった女の子たちと公園にたまったりしてた。

 中学を卒業しても、何をするでもなく、引きこもりというのか、ずっとうちにいる。

 お小遣い稼ぎにバイトはいろいろしたけどどれも長続きせず、そもそも高卒じゃないと雇えないと言われたり。

 中卒だと働き口を見つけるのも難しい。親として、いちばんどうしていいかわからなかったのがこのときだった。毎日、ブラブラしているし、そのうち、同じように学校に行かない子が集まって、LUNAの部屋がたまり場のようになった。夜中の2時、3時まで騒いでいるし。

 何をするわけでもないんだけど。ヒップホップに興味を持ち始めてたから音楽を聴いたり、クラブにもよく出入りしてたよね。当時はヒップホップの英語の歌詞の意味はわからないんだけど、包み隠さず自分を出し、何かを発信しようというパッションみたいなものが、自分にはすごく伝わってきた。

 今の状況を変えるためには、テレポーテーションさせるみたいに一気に環境を変えないとダメだと考えた。岐阜の実家にはおふくろが一人で住んでいるし、素朴な環境のなかで自分を見つめ直すのもいいかと思って、「行ってきたら」と言ったんだよね。そしたら、すごく泣いて。

 「だって、ヒップホップがない。無理〜!」(笑)

 好きなことがあるならそれをやらせるのもいいかと、今度は関東圏にある全寮制の好きなことを1日中やってもよいという学校を見つけてきた。「ヒップホップをずっと聴いたり歌ったりできるよ」と勧めたけど、また「わぁ〜っ!」と泣く。

 「東京じゃない〜無理〜」(笑)

 親としてはなすすべがなく、ほとほと困り果てた。このままずっと働かないで家にいさせていいのか。親に依存しているわけだし。そんなとき、たまたまいいボイストレーナーの先生との出会いがあって。

 その先生から、私の大好きなアーティストさんがニューヨークの「アポロ・シアター」で歌っていると聞いて、「自分もニューヨークに行きたい!」と。

 はじめて娘が自分の意思で「こうしたい」と言った。今の環境から抜け出すチャンスだから、僕は「よし、行け!」と送り出したんだよ。