やりたいことをして笑い声が聞ければいい
父 ヒップホップのアーティストとして活動するうちに、僕の娘であることが知られるようになった。二世ということでテレビのオファーもくるようになって、フジテレビの『笑っていいとも!』に出演。
ところが、生放送が終わったあと、わんわん泣いて帰ってきたね。化粧もすっかりとれちゃってて。プロデューサーさんに、挨拶ができないことだとか、めちゃくちゃ怒られたって。
娘 いじめられたと思ってた。
父 よく知っているプロデューサーさんだから電話で聞いてみると、「この業界のことをキツく指導しておきました」と。あえて、ガツンとやってくれたのがよかった。テレビの世界は面白おかしくやっているように見えるけど、みんなで真剣につくっているということを伝えてくれた。
娘 そのおかげで、今ではパパのこともすごくよくわかるようになった。マジックと音楽は違うジャンルだけど、私もアルバムを制作したり、ライブのステージ演出も考える。エンターテイナーとして、自分がつくったもので人を楽しませる点では同じ。
その大変さがわかるから、「そりゃ、寝るヒマだってないよな」とパパが忙しくしていた頃のことも理解できるようになって。私は曲をつくっているときは悶々としちゃうから、「ああ、だからパパもしゃべらなかったんだ」とかね。
父 新しいものをつくる大変さ、生みの苦しみを、少しはわかりあえるようになったかもしれないね。
娘 好きなことをやるっていう点でパパと私は似てるよね。5歳年上のお兄ちゃんは、私とは違って、真面目で、温厚で、堅実な仕事について、3人の子どもをもつよき家庭人。
父 同じ環境で、同じものを食べて育ったのに、どうしてこんなに違うのか。マジックよりも不思議だね。息子一家は、毎日、必ず家族5人揃って食事をすることが習慣だし。
娘 パパを反面教師にして。(笑)
父 「こういうことを僕もやらなきゃいけなかったんだろうな」と、息子や孫を見ていて思う。今、あらためて人生を教えられているような。
娘 それにしても、孫の前では昔の近づきがたいパパはどこかに行っちゃうよね。「じいじ」と言われながら、3人に突撃されて、頭をバンバン叩かれている姿なんて、どうしよう、見ていいのかなって……。(笑)
父 孫は子どもとは別なんだよ。
娘 たしかに私が子どもの頃、親子の接触は密ではなかったけれど、「あれはダメ、これはダメ」とすべて拒否するのでなく、自由にさせてもらったところは本当にありがたかった。
ママは「やりたいことが見つからないから、みんな学校に行くのよ」と言っていたけど、パパは「やりたいことがあれば、やれ」と。まあ、やりたいことを見つけてやるのって、実際には難しいんだけど。
父 僕自身が、やりたいことをやってきたからね。
娘 今考えると、パパは人生のポイント、ポイントで私を導いてくれたんだね。父親と子どもの関係って、それだけでもいいんじゃないかな。
父 子どもが自分の選んだ道を進み、笑い声を聞かせてくれるのなら、何をやってもいいと僕は思う。好きなことで食べていくのは大変だけどね。
あと、父としての願いがあるとすれば、結婚してもらいたい。普通の女の子としての幸せをつかんでほしい。
娘 それは、人生でいちばん難しい。最大の課題です。(笑)