ニューヨークへ渡り大きな夢を見つけた
娘 ニューヨークに行ったのが19歳のとき。英語はまったく話せなかった。ハーレムにあるシェアハウスで3ヵ月を過ごすあいだ、アポロ・シアターの「アマチュアナイト」に出場したり……。
父 4位に入賞したんだよね。
娘 そう。でもそこではじめて、アジア人だという理由で人種差別を受けたり、貧困で苦しむスラム街から抜け出すために、自分よりもっとつらい環境で音楽を頑張ってる人たちを間近で見たり。とにかく人生観が変わるような貴重な経験をした。
父 たった一人で飛び込んでいったからね。好きなものを見つけたことから、すべてが始まっている。
娘 「マリックの娘」というのがなくなって、LUNAとしての自分を出せるのもすごくよかった。
父 帰国したとき、「どうだった?」と聞くと、それまでいつも目をそらしていた子が、僕の顔をまっすぐ見て、ニコッと笑いながら「面白かった」と。ああ、大人になって帰ってきたんだなと嬉しかった。
娘 自分のなかで何か芯が通ったというか。それまでは、この先どうしたらいいのかわからないという同じ悩みを抱える仲間とつるむことで、不安はいっとき解消されてた。
だけど、18、19歳となるにつれ、みんなが大学や就職と将来に向け進み出すなか、自分はまだ何も進んでいない不安を抱えて……。それが、音楽という大きな夢を見つけて変わった。
父 好きなことを見つけ、追求したいと思うと人間は変わるね。
娘 記憶に残る最初の音楽との出会いはというと、5歳くらいの頃、パパが素晴らしいから見なさいと買ってきてくれた、「We Are The World」のミュージック・ビデオね。
父 マイケル・ジャクソンやスティービー・ワンダーを真似て、歌ってたよ。
娘 ブラックミュージックやヒップホップへの興味も、元をたどればそこにあるのかも。