アロハ・ブギ

さて、服部とシヅ子のアメリカ行きは、6月から10月まで4ヶ月という長い旅となった。

飛行機が途中のウェーキ島に着陸した時に、ハワイの歌手による海賊盤「銀座カンカン娘」が流れており、ハワイ本土でも大流行していた。

ホノルルで服部とシヅ子は、『オーケストラの少女』(37年)のプロデューサーで、ハリウッドの大立者、ジョー・パスタナックに紹介された。

そこで新作映画で「銀座カンカン娘」か「珊瑚礁の彼方に」のいずれかを使用したいと考えていると聞いた。

もしも採用されたら、服部は世界マーケットで勝負ができると期待したが、日本語歌詞がネックとなり実現しなかった。

ホノルル国際劇場公演では、音楽の勉強のために故郷に帰国していた灰田晴彦がスチール・ギターを弾いて、晴彦作曲の「鈴懸の径」を演奏する景を用意した。

その頃、ハワイでも「買物ブギー」が流行していて、道ゆく日系人が服部やシヅ子に「おっさん、おっさん」「わて、ホンマによう言わんわ」と声をかけてきたという。

帰国後、服部はハワイを題材にした「アロハ・ブギ」(作詞・尾崎無音)を作った。

ハワイアン・スタイルのブギで、リズムもさることながらエキゾチックでムーディなメロディが際立っていた。

2013年、サクラメントでのひばりのライブ音源が発見されてCD化された。

ひばりは「ヘイヘイブギー」と「コペカチータ」を唄っていたのである。これも当然のことだろう。

物真似ではなく12歳のひばりの解釈で、服部ソングを唄っている。

笠置シヅ子とは違うスタイル、ぼくたちが知っているひばりの歌唱がすでにある。

服部もシヅ子も、この資質を見抜いていたからこそ、ひばりにはオリジナル曲で勝負して欲しいと思っていたのだろう。

※本稿は、『笠置シヅ子ブギウギ伝説』(興陽館)の一部を再編集したものです。

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