ナチュラリストであり、動物研究家でエッセイストだった、ムツゴロウこと畑正憲さん。2023年4月5日に亡くなられたムツゴロウさんですが、実は無類の麻雀好きで、日本プロ麻雀連盟最高顧問という肩書もお持ちでした。そのムツゴロウさんの一周忌にあわせて刊行される『ムツゴロウ麻雀物語』より、「動物との交流もギャンブルも命がけだった」ムツゴロウさんの日々を紹介いたします。
人の死に対して、私は冷静さを粧うのが好きだった
テレビで五味(ごみ)さんの訃報(ふほう)に接した瞬間から私は落ち着かなくなっていた。
青山の事務所の中を、煙草(たばこ)をふかしながら歩きまわった。椅子(いす)に座ると、五味さんの、細い、やさしい声が聞こえる気がした。五味さんとは特別の付き合いをしてきたわけではないのに、このままでは済まないという思いがあった。
これは私にしては珍しいことだった。
冠婚葬祭とまとめてもいいと思うが、特に人の死に対して、私は冷静さを粧(よそお)うのが好きだった。冷淡と言っていいぐらいに、そうかとだけ頷(うなず)いて、死にまつわる悲しさを心の中の小箱にしまいこんでピンと鍵(かぎ)をかけてしまうのだ。
死は、その人にとって、祝福さるべきものだという、ひそかな思いがありもした。生きていくことは、痛苦と汚辱にみち、片時も心が安まらず、だからこそ人は、生の歓喜を大声で歌いたがるのだ。
死が訪れさえすれば、体を造り上げる細胞の一つ一つ、数十億、数百億ある細胞の一つ一つが、活動することから解放され、緊張をといていく。