紅茶の中には、透明なエチルアルコールを注いだ

私は生命のやぶの中に首を突っこんで、いく晩も夜を明かした。

夜が白んでくると、酔ったようになっていたものだ。少年小説の中に出てくる、秘密の洞窟(どうくつ)を探検したような気分になっている。

誰もいない研究室で、湯をわかし、紅茶をいれるのが常だった。紅茶の中には、透明なエチルアルコールを注いだ。

そのアルコールが、人の死体を洗った後のものだというのが、何故か非常に気に入っていた。医学部の方で、人の死体から何かを抽出した後の廃棄物である、どろどろに濁った赤紫の液体を貰(もら)ってくる。それを蒸溜(じょうりゅう)したものだった。

アルコールの酔いは、ボクシングのストレートパンチに似ていた。胃の腑(ふ)に落ちたその瞬間、体中に酔いの電気が走った。