細胞の死

動物学を学んでいた頃(ころ)、何度、細胞の死に接したことか。

『ムツゴロウ麻雀物語』(著:畑正憲 /中公文庫)

生きている細胞の中には、絶え間のない動きがある。熔岩(ようがん)の流れに似た、重っ苦しい流れが起こって、ラグビーボールの形をした核がぐらりと揺れたりする。細胞の中には、大小さまざまの粒が浮いていて、それぞれに光りながら、無秩序に動きまわっているように見える。

研究の徒として私が選んだのは、細胞の中のその得体の知れぬ動きの中に、必ずあるに違いない、法則性を発見することだった。何かきまりがあれば、それは命というものが持つ、不可思議な秘密の、最も原始的なものだと言えるだろう。

夜を徹して、私は細胞をいじくりまわした。単細胞の生物のこともあれば、人から採取した生きている細胞のこともあったりした。

動きはある―あるけれども、人の智恵(ちえ)ではくくれない。気まぐれとしか思えない、乱雑なもののようでもあった。しかし細胞が数え切れぬほど集まって一つの生物体を構成すると、一見分かりやすい形になってしまう。