『イヴリン嬢は七回殺される』著◎スチュアート・タートン/訳◎三角和代

 

7人の身体に転移しながら同じ謎ときに8回挑む!

同じ時間を何度も繰り返す「タイムループ」ものといって、すぐ思い浮かぶのはケン・グリムウッドの『リプレイ』。記憶喪失者を主人公にした小説なら、宮部みゆきの『レベル7』。共に名作が多いジャンルですが、スチュアート・タートンの『イヴリン嬢は七回殺される』は、双方の魅力を併せ持つ長篇小説です。おまけに、主人公の意識は8人のキャラクターに転移! 超絶技巧のSF本格ミステリに仕上がっています。

舞台になるのは、森の中に建つハードカースル家の屋敷「ブラックヒース館」。広大な敷地を誇るも老朽化が進み、栄華を極めたかつての面影はありません。その館に、早朝、雨でずぶ濡れになった一人の男がやってきます。ドクター・セバスチャン・ベルです。でも、その身体の中にいる〈わたし〉には違和感しかありません。自身に関する記憶を失った状態にある〈わたし〉は、中世の〈黒死病医師〉のコスチュームをまとった謎の男から「仮面舞踏会が開催される今夜、当家の令嬢イヴリンが何者かに殺される。その犯人を見つけ、事件を阻止できないかぎり、この一日を延々と繰り返すことになる」という趣旨の説明を受けます。

ベルの身体にいられる間に解決できなかった〈わたし〉は、その後、屋敷の招待客や使用人、別の7人の身体に転移し、同じ一日を繰り返しながらイヴリン殺しの謎に挑んでいく──のですが、謎はそれだけに留まりません。そもそも〈わたし〉は何者なのか。なぜ、こんなループに巻き込まれてしまったのか。一筋縄にはいかない8通りの一日を描いて、知的にスリリング。驚くべき真相目指して、メモを取りながらゆっくり楽しみたい1冊です。

 

『イヴリン嬢は七回殺される』
著◎スチュアート・タートン
訳◎三角和代
文藝春秋 2000円