これからは「あげる」立場に

振り返ってみると、やっぱり『大家さんと僕』で描いた大家さんと出会ったことが、僕の人生にとっては大きな分岐点になったような気がします。今、こうして漫画を描いているのも大家さんからいただいたものですし。でも、そのお返しをしたいと思っても、天国に旅立ってしまった大家さんにはもう何も返せない。だから、僕が大家さんからもらったものをこれからは他の誰かにあげていきたいと思っています。

吉本に、絵本作家として活動しているひろたあきらくんという後輩がいて、文学フリマに絵本の同人誌を出品したいので僕にも参加してくれないかと、先日、打診されたんです。以前の僕だったら自分のことで精いっぱいで、「忙しいから無理」って断っていたと思うんですね。もともと人見知りな性格だし、新しいことをするのも苦手だし……。でも近頃は、誰かのために何かをしたいと思えるようになりました。

決して無理をしているわけじゃなく、大家さんが言っていた「もらってくださるだけで嬉しい」という言葉の意味がようやくわかるようになったと言いますか。いつか天国で大家さんに会うことができたら、あの世の伊勢丹に2人で出掛けて(笑)、もう1度、一緒に美味しいご飯を食べたいですね。

 

(撮影◎本社・奥西義和)