子どもの頃に作ったカルタを手に(撮影:宮崎貢司)
下宿の大家さんとの交流をつづった漫画『大家さんと僕』がベストセラーとなった矢部太郎さんが、新作『ぼくのお父さん』を上梓。風変わりな父と家族のエピソードや、ユニークな子育て日記で気づいたこととは(構成=村瀬素子 撮影=宮崎貢司)

父が幼い僕を観察してつけていた絵日記

僕は自然が残る東京の郊外で生まれ育ちました。紙芝居や絵本の作家である父(やべみつのりさん)はずっと家にいて、母は外で働いていたので、幼い頃の僕は父と二人で過ごす時間が長かった。よそのお父さんは毎朝スーツを着て出勤するのに、「うちのお父さんは違う、ちょっと変わってる」と子ども心に思っていました。

大家さんの次は何をテーマに描こうかなと考えていたとき、頭に浮かんだのが、僕が子どもの頃の父の姿だったのです。父に相談したところ、「これを参考にしたら」と送ってくれたのが、「たろうノート」。父が幼い僕を観察してつけていた絵日記です。そこには、僕がはじめて歩いた姿や遊ぶ様子が日常の出来事とともに細かく描かれていて、曖昧だった記憶が鮮明になっていきました。

家の屋根から花火を見上げたり、野原で手作りの凧をあげたり、ひょうたんを作ったり、大晦日にお焚き上げに行ったり……。昭和の歳時記みたいですね。この父の絵日記を元に、多角的な視点で、お父さんと僕、そして家族を描きたいと思ったのです。

父は、姉についても絵日記をつけていて、そちらも参考資料として役立ちました。ちなみに、「お姉ちゃんノート」は38冊あり、「たろうノート」は3冊ですから――その差はショックでしたけど(笑)、2人目あるある、でしょうか。

でも、お姉ちゃんノートには、僕がこの世に存在する前の3人家族のときの出来事や、僕が誕生して歓迎されている様子も記されていて。そんな角度から自分を見るのは新鮮でしたし、矢部家の長編物語を読んでいるようで面白いんです。