自然が残る東京郊外で生まれ育った太郎少年 (c)矢部太郎・吉本興業

一家を支えてくれていた母の姿

もともと母は一人で都会に出てきて働いていた、自立した女性。結婚して子どもが生まれてからも、家族が生活できるように働くことを一番に考えていたと思うんです。そのうえで興味のあることや好きなことをしていたんじゃないかな。

母は、仕事と子育てをしながら放送大学を受講して、ちゃんと卒業したんです。僕も気象予報士の資格を取るなど、勉強が好きなところは母の影響だと思いますね。

普段遊んでくれたのは父だけど、母は休日によく映画を観に連れてってくれました。映画のあとは食事して。すごく楽しい思い出としてはっきり覚えています。

『ぼくのお父さん』を描きながら思ったのは、母は家族のために外で働いていたけれど、きっと母もやりたかったことがあったんじゃないかということ。お父さんのように自分の好きなことをして、自由に生きたかったのかもしれない。それは僕の勝手な想像で、母に聞いてみないとわかりませんが。

この本が出版される前に父に感想を聞いたとき、「もう少しお母さんのことも描いたほうがいいんじゃないか」と言われたんです。僕の性格は母の影響をたくさん受けているし、母がいたから家族の形ができて、矢部家のバランスがとれていた、と。本の中では脇役だけど、母の存在の大きさが読む人に伝わったら嬉しいです。

母には、本の感想を聞いていません。あまり僕の仕事に干渉する人ではないので。ただ、父からのメールには、「さっちゃんも喜んでたよ」と。あ、さっちゃんは母のことです。