父・やべみつのりさんと語らう太郎さん。やべさんは子どもの造形教室を主宰、紙芝居作品を多数手がけ、1996年第34回五山賞奨励賞を受賞。絵本に『かばさん』『あかいろくん とびだす』などがある (C)新潮社

ある日、父が「粘土に文様を描いて、縄文土器を作ろう」と僕の友達も呼んで、土から作った。でも、仕上げの野焼きで割れちゃって。落胆する僕らの前で、父は粉々になった土器を土に埋めて「また地球に還ったね」と。「失敗してもいいんだよ、大事なのは結果じゃなくて、過程だよ」というのが父の考え方で、僕もこの体験でそれを学んだ気がします。

でも父は、子どもに指導して教える、という姿勢ではありませんでした。子どもに楽しんでもらおうとしていたし、自分も楽しもうとしていた。もっと言うと、逆に子どもから教わろうとしていた。父の根底には「子どもはすごい」という考え方があり、「子どもが描く絵が一番面白い」とも言っていました。

子どもの頃、僕が描いた絵も「お父さんにはこんな絵は描けない、すごいね」と誉めてくれて。おかげで僕は自信が持てたし、家族新聞やカードゲームなんかもあれこれ創作していましたね。「何かを作ることは楽しい」と思える、それが父から受けた一番の影響かもしれません。

家族で食事するときも、父がたけのこの煮物を見て「今年、初めてのたけのこだから」とスケッチを始めるんです。僕らは箸をつけられず、おかずが冷めちゃって(笑)。ホントへんな人ですが、父を見ていると、「描くことは、生きること」みたいな感じがします。

一方で、仕事の絵本作品はなかなか描けなくて、悩んでいる姿も目にしました。本書には、父が絵本の締め切りを守れず、出版社の編集の方がうちに来て催促するシーンがあります。父が子どもと遊んだり、畑で野菜を育てることに夢中になったりするのは、ある意味、仕事からの逃避です。

でも今思うのは、そういう豊かな時間を過ごすことで父の中に何かが残り、そこから生まれてくるものが作品に反映されていたんじゃないかな。

僕は父とは違うタイプ。四六時中絵を描いたりしないし、締め切りは守ります(笑)。僕は母の影響も受けていますから。