(写真提供:Photo AC)

 

外務省発表の『海外在留邦人数調査統計』(令和4年度)によれば、フランスには36,104人もの日本人が暮らしているそう。一方、40代半ばを過ぎて、パリ郊外に住む叔母ロズリーヌの家に居候することになったのが小説家・中島たい子さんです。毛玉のついたセーターでもおしゃれで、週に一度の掃除でも居心地のいい部屋、手間をかけないのに美味しい料理……。 とても自由で等身大の“フランス人”である叔母と暮らして見えてきたものとは?

日本で食べるフレンチは「高級店の形」?

フランスに行って知ることは多い。フレンチ=フルコース、という定番の思い込みがあるけれど、フルコースという食べ方の本来の意味も、今回来てみて、そういうことなんだ、とわかった。

日本だと、子供はお祝いの席などで、フォークとナイフの使い方を教わりつつ、フレンチのフルコースを初体験することが多い。私も子供の頃から、たまにだけどホテルやレストランの厳(おごそ)かなムードの中でフランス料理を食べることがあった。

けれど、小学生で初めてフランスに行ったとき、その日本のフレンチと叔母の料理は、まったくくっつかなかった。日本で食べるフランス料理となぜ違う? と子供ながら思ったものだ。 

「レストランで食べるお料理と、家庭のお料理は違うのよ」

私が問うと母は返した。日本で食べるフレンチは「高級店の形」だという。それが本当かどうか確かめたいから、フランスにいるうちに高級店に連れて行って欲しい、と母に頼んだけれど、却下された。