赤ちゃんが単語を言えるようになるまでの道のりとはーー(写真提供:Photo AC)
「子どもはラクラクとことばを覚えられてうらやましい」「幼い時から外国語に触れていたら、今頃はバイリンガルになれたのに…」。いずれも「ことばの学習」についてよく耳にする一言です。一方「赤ちゃん研究員」の力を借りて、人がことばを学ぶプロセスを明らかにしてきた東京大学の針生悦子先生は「赤ちゃんだってことばを覚えるのに苦労している」と断言します。その無垢な笑顔の裏で、実は必死にことばを学んでいた…あなたは信じられるでしょうか? 書籍『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』をもとにした本連載で、赤ちゃんのけなげな努力に迫ってまいりましょう。

声はどのように発達するか

言語を話すためには、聴き取った単語を、自分で言えなければなりません。そして、そのためには、声を自在にあやつることができなければなりません。この点から見ても、赤ちゃんが最初のことばを話すのは、1歳の誕生日頃になってしまう事情があります。

赤ちゃんの声が、どのように変化し、ことばになっていくかについては、ダーウィンも、自分の子どもを観察し記録に残しています*1。その記録と標準的な声の発達をまとめたのが、図表10です。これを見ながら、赤ちゃんの声の発達をたどっていきましょう。

(『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』より)

生まれたばかりの赤ちゃんは、「オギャー」と産声をあげます。これは、赤ちゃんが生まれて初めて肺に吸い込んだ空気を、力いっぱい吐き出すときの音です。

この一回目の「オギャー」は、口や鼻に残っていた羊水も一緒に吐き出すため、文字どおり「ギャー」という感じの濁った音になります。

しかし、いったん羊水を吐き出してしまえば、後に続く泣き声は、もう少し澄んだ音になり、「オギャー」の声は規則正しいリズムで繰り返されるようになります。