やっと単語が言えるように
このように淡々と説明すると、赤ちゃんの声は、時期がくれば変わっていくもののように思えるかもしれません。確かに、成長とともに口のなかの空間が広がり、舌が動かせるようになることは重要です。
しかし聴覚障がいのある子どもは、声は出せても、それが規準喃語にはなっていきません。言語に近い発声ができるようになるためには、自分で唇や舌を動かして発声してみて、その声を聞き、発声の仕方を調整して、という赤ちゃん自身の練習が必要なのです。
実際にこの時期の赤ちゃんは、自分の身体の動きとその結果(音)との関係に、大いに興味を持っています。振ると音が出るようなおもちゃに、いちばん熱中するのも、ゼロ歳後半のこの頃です。
このようにして、1年にわたる口やのどの成長、そして発声練習があって、子どもは1歳の誕生日を迎える頃、やっと単語が言えるようになるのです。
*1 Darwin, C. 1877 A biographical sketch of an infant. Mind, 2(7), 285-294.
※本稿は、『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』 (著:針生悦子/中公新書ラクレ)
東京大学で認知科学や発達心理学の研究に従事する著者は、赤ちゃんの「驚き反応」に着目するなどして、人がことばを学ぶプロセスについて明らかにしてきました。子どもはラクラクとことばを覚える「天才」? 赤ちゃんは耳にした「音」をどうやって「ことば」として認識する? 生まれた時から外国語に触れていたら、誰でもバイリンガルになれる? 本書を読めば、赤ちゃんの無垢な笑顔に隠れた努力に驚かされること間違いなし!