「子どもはラクラクとことばを覚えられてうらやましい」「幼い時から外国語に触れていたら、今頃はバイリンガルになれたのに…」。いずれも「ことばの学習」についてよく耳にする一言です。一方「赤ちゃん研究員」の力を借りて、人がことばを学ぶプロセスを明らかにしてきた東京大学の針生悦子先生は「赤ちゃんだってことばを覚えるのに苦労している」と断言します。その無垢な笑顔の裏で、実は必死にことばを学んでいた…あなたは信じられるでしょうか? 書籍『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』をもとにした本連載で、赤ちゃんのけなげな努力に迫ってまいりましょう。
赤ちゃんと大人の「言葉の学び方」の違い
そもそも赤ちゃんは、周囲の人の話し声のなかにどのような単語が含まれているかもまったく知らないところからスタートします。たとえ大人でも、知らない外国語での会話を聞かされて、そのなかから単語を見つけなさい、などと言われたらうんざりすると思います。
赤ちゃんは、音のつながり方を手がかりにして、単語を自分で見つけていきます。確かに、単語はいつも同じ音のかたちをしていなければならないのだから、この方法は王道です。
王道なのだから大人にも使えないはずはありません。しかしそういう気持ちで、大人の私が、よく知らない外国語のおしゃべりを横で聞いて、単語を見つけ出せた試しはありません(根気もないのですが)。
それでも、そうするしかないというのが、まさに赤ちゃんの置かれた状況です。大人との最大の違いは、赤ちゃんはそこから逃れられないということでしょうか。