何ごとにおいても気を入れる

先代の九重親方(元横綱・千代の富士)は、やはり気持ちを込める、気を入れるということを大事にしていたのでしょう。そのことについても、九重さんが答えてくれました。

九重親方:「そうですね。朝起きてから、夜寝るまで、本当に気を抜くところがないです。掃除もそうですし、食事の準備もそうですし。相手のことを思ってやらなければなりません。部屋に来られるお客さま、後援者のみなさまに気を配らなければなりません。先輩の雑用にも気を使い、気を込めなければなりません。

気を抜いたらわかるんです。一つ一つの物にも気を込める。たとえば、食事の後の洗い物でお皿を割ってしまうことがあります。考え事をしていたり、嫌々やっていたりすると、やはり割りやすいんです。

で、おかみさんに報告に行くんですけど、それを言うのが本当に苦痛で……。あるとき、コップを割ってしまい、それをごまかそうとして、なけなしのお金で同じコップを買ったんです。でも、すぐにばれました(笑)。

それで、師匠に呼ばれます。『お前、何かしただろ?』『はい、すみません。昨日、コップを割りました』『何で言いにこないんだ』と叱られる(笑)。もうね、全部見透かされちゃうんですよ。だから本当に気が抜けない。気が抜けたり、気持ちが切れたりすると、戒められる。実際に失敗もやらかしますしね。

だから、全方位に気を配る。身に付いてくると、自然にできるんですけど、身に付くまでが大変なんです。基本って、そういうものだと思います」(以上、九重親方)