もう一人のアイルランドを代表する作家
さて、もう一人アイルランドを代表する作家をご紹介しましょう。
それは、詩人で劇作家、思想家。民俗学者でもあるウィリアム バトラー イェイツです。
イェイツは、幼少の頃から親しんだアイルランドの妖精の話などモチーフとする抒情詩で注目され、その後、芸術活動を通じて「ケルト復興運動」の担い手となりました。「ケルト復興運動」とはアイルランドにおけるケルトの歴史や文学の研究、アイルランド語復興を目指し、さらに言語や文学だけでなく、スポーツやダンス、音楽などにおいてもアイルランド以外のものを排除し「アイルランドの伝統」とされるケルト文化を復興させようとした運動です。
そして、このような活動の中、現代詩の世界に新境地を切りひらき、20世紀の英語文学、現代詩において最も重要な詩人の一人となりました。とはいえイェイツは1922年から6年間、アイルランド上院議員も務めたものの、生涯のほとんどをイギリスを拠点にして活動しました。
そのイェイツの代表的な作品をご紹介します。
「イニスフリーの湖畔に」
今、立ち上がり、イニスフリーに行く
そこに泥と小枝で作られた小さな小屋を建てよう
九列の豆をそこに植えよう、蜂蜜を集めるための巣箱も
そして蜂の羽音の賑やかな林でひとり静かに暮らそう。
そこでは平和が得られるだろう、平和はゆっくりと降りてくる
朝のベールから、クリケットが鳴く場所まで雫が落ちるように
真夜中はキラキラと輝き、正午は紫の光が差し
夕方はリンネットの翼で満たされる。
今、立ち上がり、イニスフリーに行く
常に夜も昼も湖の水のさざ波が岸辺で穏やかな音を立てているのを聞く
私が道路に立っているときも
灰色の舗装の上でも
その音を心の深いところで聞くのだ。
イェイツは生涯を通じて多くの変化と進化を遂げたことで知られています。
しかし、その作品の根幹にはアイルランドの神話、民話、歴史、風景があり、また、自身の探求と霊的な追求に満ちていると言われています。そしてイェイツは「霊感に満ちた詩作」が高く評価され1923年にノーベル文学賞を受賞するのです。