病院勤めをしながら、自宅を相談の場として開放するようになったのは1983年。「自分と同じ登校拒否の子たちと話がしてみたい」という子どもたちの要望を受けてのことだった。
親たちからも「集まる場がほしい」と声が上がり、現在の「モモの部屋」に続く土曜会・水曜会という親の会もスタートした。
「ふすまで仕切った狭い和室に、初回から26人もぎゅう詰めに集まってね。それだけ、同じ経験を分かち合いたい親が多くいたということですよね」
病院の心理室には、60歳の定年まで勤めた。ほかにも、NHKラジオ『子どもと教育電話相談』『子どもの心相談』を88年から23年間担当し、現在も精力的に講演や執筆活動を続けている。
「ここまで長く仕事を続けてこられたのは、私が『野良』でいたからだと思っています。病院勤めも非常勤でしたから、組織の意向に無理して合わせる必要はない。誰にも管理されることなく、どんなときでも、『学校より子どもの命が大事』『子どもに学校を休む権利を』と訴えてきました」
人の悩みや不安を聞くことの専門家である内田さんだが、自身のマイナスな感情とはどう向き合っているのだろうか。
「ストレスがたまったら、温泉に行くの。携帯電話も通じない山奥の秘湯に2~3日こもると、身も心もスキッとします。コツは、限界まで我慢せずに早めに行って、リセットすることですね」
真面目で責任感の強い人ほど頑張り過ぎてしまう、と内田さん。
「負の感情に囚われて、視野が狭くなっていると感じたら、1週間に1回、1時間でもいいから、自分がいつもいる場所から物理的に離れて、非日常の世界に意識を向けてみてほしいのです」
また、「困ったり悩んだりしている人はすでに、解決に向けて取り組んでいる状態。ただそれがうまくいっていないのは、糸口が見つからないからです。でも実は、心の底に皆さん答えを持っている。それをよき聞き手に話すことで、自身で藪払いができ、考えが整理されて、解決への道が見えてきます」とも言う。
「私は、自分以上でも以下でもない。等身大の自分でこれからも生きていこうって思っているんですよ」と微笑む。プロとして他者の感情と向き合ってきた人だからこその、何ごとにも囚われない柔軟な心の持ちようがとても印象的だった。